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2010 / 05 / 21 ( Fri )
 以前、
「人間の闇の部分と徹底的に向き合って、深く掘り下げた本を書いてみたい」
と思いながらも、言葉が落ちてこないので断念したことがある。
 先日、柳美里の「ファミリー・シークレット」を読んで、私に「闇」が書けない理由がわかった気がする。

 リアルで説得力のある文章を書くには、その背後に何十倍もの奥深い体験が必要だ。
私には、「闇」を理解できる体験はあっても、書けるほどの体験はない。
「闇」にまつわる本を書くことは、私の人生には想定されてなかったのだとあらためて気づかされる。

 「ファミリー・シークレット」では、虐待の抗い切れないエネルギーと、
世代間の連鎖、それを断ち切るための重要なヒントや視点、
脱出する時にぶつかる抵抗などについて、当事者の立場で克明に描かれている。
かなりドロドロ系だが、見事に的を射た表現がなされている。
 この作品を書き上げるためにも、彼女は「柳美里」という人生を歩くことが必要
だったのかもしれないなあと、しみじみ思う。
 
 彼女だけでなく、世の中の多くの人が「何か一つのこと」を成し遂げるために、
人生の多くの時間と経験とエネルギーをつぎ込んで生きているのかもしれない。
 
たとえば、たった数週間の宇宙生活のために、気の遠くなるような何年もの時間と
努力をつぎ込んだ山崎さん一家のような生き方は、私にはできない。
でも、その一方で、他人が私の人生の細部を見たら、
「なんでこんなことのために、人生全部賭けているの?」
と思うことがあるに違いない。

人からみたら、「なぜこんなことにこれだけの情熱と時間が懸けられるのだろう」
と思うことが、本人にはどうにもこうにもやめられない…というのが、
案外その人の生きる道なのかもしれないなあ、なんて思う。
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